桜打ち散る夕暮れに、“奴”は忽然と現れた。
深縹色の、蛙のような湿った肌。煙草を吸った後のような、灰の息 くゆらす口元に、冬の海の白波のような、冷え冷えとした牙が見える。たくさんの足を地に着けて、見た目は巨大な鮹なのだが、奴は何をすることもなく、ただ此方を見つめていた。
奴が消えたのは三ヶ月前。ちょうど、イリーナ先生と校長に、除霊の許可をもらった翌日だった。
奴はどこに消えたのだろう。誰かが、先に祓ってくれたのだろうか。
先生は分からないと言う、しかし、なぜか安堵しているようにも見えた。
まぁ良いかということで、これにて一件落着である。(?)
宿題は何とか終わらせて(ニムロッドやルースに答えを写させてもらったとも言う)、待ちくたびれたと新年度。
桜のにおいが馬鹿みたいに鬱陶しい、春が再びやってきた。
目下の目標はとりあえず、花で転ばないことだろうか。笑
あとはそうだな、そろそろニムロッドに嫌われないように、喋り方を直せるように努力してみよう。目を見て話せるように、少しでも吃らないように。
(…ところで、何故花で転ばないよう、なんて思ったんだろう。
普通、花でなんか転ばないような…)