……目が、覚めた。
なぜだか頭がぼんやりとした。
まるで、頭が考えることを拒否しているかのように。
……珍しい。
普段からいつも命の危機を感じていたんだ。こんな目覚めは久々だ。
ぼんやりとしたまま進める足。
重い。体が、重い。
ふと教室で止まったその歩みは自分に現実を気がつかせた。
……あぁ、そうか。
あれは、全て夢になったのか。
俺が死んだ事も、師匠が死んだ事も、仇敵が死んだ事も。
全て、夢に。
……いや。
……あの夢は、夢のようで、夢じゃない。
分かる。直感。目の前の奴ら。
全て、思い出した。
……いつだっただろう。
人が死ぬ、ということを。あの時の俺はきちんと理解していただろうか。
普通、家庭の居間に血の海なんて見ないだろ?
肝脳塗地。凄惨な光景。忘れるわけがない。
……あぁ、やめだ。思い出すのは。気分が悪ぃ。
……それにしても、だ。
全てが終わったと気を抜いたのが間違いだったか。
諜報員という立場。決して、知られてはならない、秘密。
仇討ちすべき相手は未だ生きている。
夢は、所詮、夢。
夢で無力さは実感した。
だから、なんだ。
そもそも、夢の力に頼った俺が愚かだったのだろう。
あぁ、馬鹿馬鹿しい。
己も、夢も。全て。
馬鹿馬鹿しい。
……なぁ?自分は分かってんだろ?
夢は現実で塗りつぶしてしまえばいい。
それは、美しい、赤に。
……あの学園に近寄らなくなって久しい。
そもそも事の発端は、中々珍しい招待だと俺が食い付いた事だ。
仕事の幅の拡大と。
何より、普通の生活、というものに興味があった。
まぁどうやら、俺にはそもそも縁がなかったみてぇだけどよ。
幼い頃から復讐に賭した俺の人生。
普通、とやらも正直理想でしかない。
その理想も、俺にとっての理想か俺には分からない。
分からない、何も。
…………なぁ、知ってるか?
俺、仇返し済んだんだぜ。
学園から解放されて次に向かった隠密先で得た情報は、俺と犯人とを繋いだ。
初めて、己の手を汚した。
いつか見た、凄惨な赤。
今や、恍惚の赤。
あぁ……人殺し、なぁ……。
あの日赤に染めたナイフをくるくると回す。
そのまま目の前に広がる海へと投げる。
ぐらり。目眩がする。
おかしい。何かが、おかしい。
これに殺されたのは、誰だったか。
仇敵か?親か?師匠か?
……それとも、俺?
復讐に賭した俺の人生はなんだったか。
もう憎き相手は、いない。
俺の人生は。復讐は。終わった。
虚無感?罪悪感?……俺はそれを知らない。
ぽつり。
いつの間に空は灰に染まったらしい。
俺の頬を伝うのは雨か、それとも
Dear.X
いつか、必ず