異端者ばかりの集う村に人狼の女がいた。
彼女はふたりの従順な男を従えていた。
雪が降り積もったある日、彼女が言った。
「肉が食べたい。甘くて柔い人の肉」
その晩、ふたりの男は恋人をひとり殺した。
その七日後にも彼女は言った。
「肉が食べたい。筋張り固い人の肉」
その晩、ふたりの男は家族をひとり殺した。
その三日後にも彼女は言った。
「肉が食べたい。生きたばかりの人の肉」
その晩、ふたりの男は友人をひとり殺した。
人狼はいつの日も、貪るように肉を喰らった。
「肉が食べたい。これで最後だ」
音高く吹雪く夜、彼女はふたりの男に言った。
長く雪の降る村にはもう、誰も残っていなかった。
「最期に自分を食べてください」
ふたりの男は彼女へ言った。
それを聞いた人狼は、ふたりを喰らい首を括った。
長く冷たい冬が明ける日、村にはひとりもいなかった。
そこまでは、密かに知られた話。